月刊クーヨン誌

月刊クーヨン(Cooyon) 2006年 9月号

カリフォルニア州ベイエリアのフリーな保育

「性別」は、子どもの人格の 一部分です。

風砂子デアンジェリス

アメリカ、カリフォルニア州サンフランシスコ湾周辺は、ベイエリアと呼ばれ、平和 活動がさかんで人権意識も高い、リベラルな地域として知られています。さまざまな ひとが集まるベイエリアでは、子どもの「性差」をどのように捉えているのでしょう? 風砂子デアンジェリスさんのレポートです。(編集部)

肌の色,髪の色、男の子、女の子、家庭の環境、それぞれに違うけれど,みんなお友だち。
「幼児教育センター」の庭の円形ステージに座ってくつろぐ子どもたち。

お人形で遊ぶ男の子。お揃いのシャツは、クラスで園外に出かける時の「制服」
バスと歩きで遠征した遊園地で、先頭に立って遊具によじのぼる サイアイ。

久しぶりに聞いた
「らしさ」に なつかしささえ感じて
 

ベイエリアの幼児教育では、「女の子らしさ、男の子らしさ」がどう扱われている のかを書いてほしい、というメールを編集部から頂いたとき、久しぶりに聞く「らし さ」ということばになつかしさを感じると同時に「子どもにまでそんなことを?」と 不思議な気もした。  バークレーで生まれたわたしの孫娘のうち、ふたりは3歳から、10月に4歳にな るサイアイは1歳から保育園に通っているが、そのなかで、日本語の「女の子らしく」 という意味のことばは、聞いたことがない。  20年間ベイエリアの5つの保育園で仕事をしてきた、友人の大羽比早子さんによ れば、人種や文化の多様性で知られるベイエリアでは、教育方針も保育園や幼 稚園 によってそれぞれ違う。でも一般的には、子どもに備わるあらゆる資質を調和的に育 て(Whole person approach)、一人ひとりの成長段階に適した教育をすること(Developmentaly appropreate approach)を目的とするところが多い。大羽さんは言う。 「ひとりの子どもには、身体、知性、感情、社会性、創造性、思いやりなどさまざま な資質が重なり合っているのですが、小学校以後は、知性的な教育に重点が置かれが ちないまの社会では、幼児期のバランスのとれた教育はとても大切です」

超おてんばのサイアイは、ハンモックから木の登り方、落ち方、すべて自分で習得。
いとこのヨエミとわが家の庭で。
一日の終わりには、子どもたちも、ほうきであそび場のお掃除。


性別で分離するより
一人ひとりのニーズを重視
 

サイアイが週5日通っている「幼児教育センター」のダリーン・ピーコーツ園長さ んは、 「ここでは〈あそび〉を通して、子どもたちが自分を発見し、成長していくことを目 的にしています」と言う。  サイアイにランチを届けたり、ボランティアのためにセンターに行くと、遠くから 子どもたちのはしゃぎ声が聞こえてくる。園庭では年の違う女の子、男の子がみんな 混じって駆けまわり、いろいろなあそびを試している。先生たちはそんな子どもたち を見守っていて、おもちゃの車であそぶ男の子がスピードを出しすぎて転んでも、駆 け寄ったりしないで、「大丈夫よ、起きなさい」と忠言する。  ふたりの孫が通った「ゲィ・オースティン」のボニー・ラエツ園長さんは、 「男女の違いはもちろんありますが、それでお互いを分離するのでなく、子どもたち 一人ひとりのニーズを重要視して教育します。周りの大人たちが通常させるのとはか えって逆のあそび、たとえば、女の子には土を掘ったり、トラックであそんだり、汚 れるあそびを、そして男の子には、人形や家族あそびをすすめます。一人ひとりが隠 された能力やたのしさを発見しながら、育ってほしいのです。男の子のほうが暴力的 と言われますが、女の子もことばを使っていじめをするのが上手だったりするので、 結局同じです」  子どもたちはおしっこの訓練や男女共用のトイレで、からだの違いを発見する。 「女の子がおしっこをしているのをのぞいたり、パンツをずり下げて『ぼくはペニス があるんだぞ!』と叫ぶ子もいます。そんなときは、『男の子はペニス、女の子はバ ギナがあることがわかったね。叫ぶことはないのよ』と教えます。大人が『ダメ!』 と叫んだりすれば、子どもは大人のそうした反応に刺激されて、何度もやってみたく なるものです」と、ダリーンさん。  おもちゃや洋服などは、もちろん子どもや家族の選択に任せる。ピンクの服が好き なのは女の子が圧倒的に多いが、ピンクの靴をはいてくる男の子もいる。

けんかをすると、先生がそばに呼んで、ただ「ごめんね」と言わせるだけではなく、
「なぜ、何がいけなくて、ごめんなの?」と聞き込む。

ふたりであそぶのはひとりよりもたのしいね。
後ろのおもちゃの家は、3匹のウサギたちのすみか。

誰かが決めた
「らしさ」でなく……
 

ベイエリアの保育園では、読書コーナー、おもちゃコーナーなどとともに、プレイ・ ルーム(芝居の場)を設けることが大切とされ、家族から寄付されたさまざまな衣服 が置いてあり、子どもたちは気の向くままに衣装を変えてあそべる。それは新しい自 分の発見にも、衣装が違っても自分は同じ、という自覚にも役立つ。  そんなベイエリアの保育環境も、この20年の間に変わってきたようだと大羽さん は言う。親たちの労働時間が長くなり、保育園や幼稚園への依存度が増す一方、 「1980年代前半には、全体的な発育が徹底的に尊重されていたのが、レーガン時 代から競争原理が繁殖し、家族からもいつ字を教えてくれるのか、などと要求も出は じめ、月謝をとっている保育園としては、ただあそばせています、とばかりも言って いられなくなったわけです」 と、大羽さん。  子どもはもともと、空気のように自分を取り巻く環境から、すべてを自分で学ぶよ うにプログラムされているという大羽さんの考えにわたしも同感。戦前を思い出す、 という声がしばしば伝わってくるいまの日本で、子どもたちに競争に勝つための教育 や、いわゆる「女の子・男の子らしさ」を押しつけることは、歴史をくり返すことに つながるのではないかと心配になる。誰かが決めた「らしさ」でなく、自然から与え られた「人間らしさ」「自分らしさ」を子どもたち一人ひとりが見つけ、生き抜いて いけるような環境をつくることこそ、わたしたち大人に与えられた責任ではないかし ら?

「お料理クラス」で、きょうのメニュー、フレンチ・トーストのつくり方を習うミーシャ君。
3歳児の「お料理クラス」では、お皿洗いの練習も。

先生に抱かれて歌を聞きながら、パパやママのお迎えを待つ
プレイハウスで衣装を選び、お芝居のまねをする子たち。

 

*1 幼児教育センター:母親たちが 1980年に創設したNGO。乳児から4歳児までの5ク ラスを受けもつ8人の保育士たちが、週に一度、あらゆる問題をもちよって討議する。

*2 ゲィ・オースティン:1970年代にイギリスで教育を受けたドイツ人の女性保育士 が創設した私設保育園。2歳から5歳児までを保育。

[ふさこ de Angelis]環境、平和活動家。バークレー在住。NPO「INOCHI」や「 非暴力対応を求める市民連合」などで活躍。共著書に『環境レイシズム』(解放出版 社)がある。