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月刊クーヨン(Cooyon) 2005年2月号
How are you?
ベイエリアのトットたち。
風砂子デアンジェリス
トット(tot)とは、ちいさい子ども、「ちびちゃん」のこと。政府が戦争に某大な予算を費やし、赤字予算と貧富の差が増大しているというアメリカでは、育児の状況はさらに厳しくなっているよう。そんななか、ベイエリアでは、幼児たちはどんなふうに育っているのでしょう? 子育てサポートは充実しているの? 風砂子デアンジェリスさんが、孫娘のサイアイちゃんをめぐる子育て環境から、レポートしてくれます。
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| トットランドであそぶ子どもたち。右側のカラフルな壁画で飾られたキャビンでは、週2回、お絵描き教室が開かれる |
10月に2歳になった孫娘のサイアイは、「サイちゃーん、トットランドに行こうよ」と声をかけると、どんなにあそびに熱中していても、「オッケー!」とすぐさまドアに駆け寄る。母親であるわたしの娘は、産後4ヶ月からフルタイムの仕事に戻り、週3日は、アルバというエル・サルバドール出身のナニー(保育士)が、あとの2日は、アフリカ系アメリカ人の父親とわたしが交代で世話をしてきた。
サイアイは、両親が使う英語と、アルバが使うスペイン語、わたしがときたま使う日本語を見事に聞き分け使い分け、「ハゥ・アー・ユー?」と聞けば「ファイン!」、「コモ・エスタ・ウステ?」には「ビェン!」、「ゲンキ?」には、「ハイ!」と至極自然に答える。3ヶ国語の歌もいくつかうたう。理屈じゃなく音で吸い込む彼女のことばの発達に、毎日びっくり感心しているおばあちゃんだ。
わたしの家からベビー・カーを押して行ける距離内には、子どもたちのあそび場が6つもあるが、0〜5歳ぐらいの子どもたちでいつもにぎわっているトットランドについ足が向く。その1/3エーカーほどのあそび場は、1949年にボランティアたちが建設。そしていまから10年ほど前に、やはり市とボランティアの協力で、身体障害の子どもも使えるように設計された大きなプレイ・ストラクチャー(遊機)を中心に、ブランコやすべり台やピクニック・テーブルなどすべてが改良された。そこに集うさまざまな人種の子どもたち、付き添いの母親、父親、中南米やアジア系が圧倒的に多い保育士たちが話すことばや行動から、それぞれの文化的背景を推測するのも、わたしのたのしみのひとつだ。
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エイミー・ファーバーさんとエマとメメ。
中国へメメを迎えに行った時、祝福の行事が行われた仏教寺院の前で。
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先日はトットランドで、ふたりの女の子を連れたエイミー・ファーバーさんに会った。エイミーは、5年ほど前に結婚して、子どもがほしかったができないとわかったとき、養子を迎えるという選択をした。中国から迎えたエマは4歳、メメは2歳になって、この春に会ったときよりもずっと大きくなっていた。生後1年のメメをアメリカに連れてきた直後、何日もの間、食べない、眠らない、排便もしないという日が続き、とても大変だったと聞いたことを覚えている。元気に走り回るその子たちの顔には、エイミーの愛と労働が光っている。
「養子を迎える決心をするまでには、すごく迷ったわ。自分にも子どもたちにも本当にいいことかどうか。でも中国の孤児院で、たくさんのあかちゃんたちが、愛に飢えた様子でじっとすわっているのを見たとき、自分の信念を新たにしたの」
ユダヤ系のエイミーの母親も、他の孫たちとまったく同様にこの子たちを受け入れているという。アメリカでは国外から養子を迎えるケースが1年に約2万件と言われ、わたしの知り合いにもたくさんいる。養子を迎えた親たちのネットワークも緊密で、それぞれの国の文化を子どもたちに伝えようと、さまざまな催しをしているという。
また、数ヶ月前に出会ったアシュナちゃんとは、ママが日本人、お誕生日がサイアイと10日違いということもあり、すっかり仲良しになった。パパのアルナンさんは、スリランカ系のアメリカ人。小学校で自閉症の子どもの特別教師としてわたしたちの友人の子を教えていた、というつながりもあった。
「ほかの子と違うからといって、自閉症の子どもたちが劣っている、という考えこそ、差別主義そのものだ」という彼のことばに、わたしはとてもこころを動かされた。サイアイが3ヶ国語を自然に話すように、子どもたちはあらゆる「違い」をそのまま受け入れ、優劣の基準からも差別の意識からも完全にフリーだ。それこそ本来の人間性ではないのだろうか?
最近、アルバが都合でサイアイのお守りをできなくなったので、ほかのナニーを探すか、サイアイの年で受け入れてくれる保育園を見つけようかと、わたしは娘と一緒にNPO「Bananas」のオフィスに出かけていった。この名前の由来は「ゴー・バナナ(頭がおかしくなる)」という俗語。いまから30年前に、いたずらざかりの幼児たちを抱えて「頭がおかしくなりそうな」数人の母親が、無料か低費用の保育施設の必要性を発言し、「子どもと親たちのための、よりよい世界を目指すための」NPOを創設したのがそのはじまりだ。ベイエリア一帯の保育園や保育士の情報を集めて紹介するばかりでなく、低収入の家族への補助金の支給や、親と保育士を対象に、よりよい育児のための多様なワークショップを主催している。
「Bananas」のニュースレターや、10ヶ国語以上を使ったウェブサイトで紹介されている保育施設は、受け入れの年齢、保育時間、費用など実にさまざまで、その選択だけでも「頭がおかしくなりそう」と娘は言うが、そんな親には無料で相談にのるなど、とても行き届いたサービスをしている。
政府が戦争に血道をあげているアメリカでは、出産や育児サポートは、健康保険や老人介護と同じように、ぎりぎりの底辺を保っている感じで、長期の育児休暇補償など夢みたい。そんななかで、働きながら子どもを育てる親たち、ことにシングルマザーや移民の家族にとって、そうしたサービスがどれほど大切なものか言い尽くせない。このNPOを立ち上げ、育ててきた女性たちの愛と行動力こそ、いまの世界、いや、いつの世界にも必要なもの。
半世紀の間、子どもたちがあそび育ってきたトットランドで、世界中に根をもつ子どもたちを眺めながら、わたしはこの子たちの血に流れる人間の歴史と、この子たち一人ひとりがつくっていく未来に思いを馳せる。
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