月刊クーヨン誌 連載
「ベイエリアからの風」

月刊クーヨン(Cooyon) 2004年2月号
コーヒーが香るカフェで
人生をシェアしてみる?

米山麻以子

「5年間過ごした居心地のいいベイエリアを離れ、先日、日本に帰ってきた米山麻以子さん。
「ベイエリアのムードとくらべて、日本はどうですか?」とたずねたら、ある「カフェ」から、こんなレポートを送ってくれました。」

そこは、女性たちが集まり、語り合う場所。自分でいることが、心地よくなる場所 です。
今回、「ベイエリアに吹く風」の正体も明らかに……!?」 アメリカは「人種のるつぼ」といわれるが、そのなかで、人種に限らず「一風変わったひと」が集まるといわれるのがベイエリア。そんななかでもさらに 「変わったひと」がこぞって集まるというのがバークレー。そんなバークレーに、とても居心地のよさを感じいたわたしが、ベイエリアを離れ、日本に戻っ てきてから4ヶ月が経った。
 すでに帰国していた友人たちの「日本への再適応の苦労話」を聞かされていたわたしは、かなりの覚悟をしていたが、当初の予想をうれしいぐらいに裏切 り、わたしのまわりには毎日「ベイエリアの風」が心地よく吹いている。今回は、そんな「ベイエリアの風」とはどんなものなのか、日本に吹いているその 「風」を紹介しながら考えたいと思う。
 わたしはベイエリアで多くのフェミニストたちと接してきた。「フェミニスト」というと、何か限定されたひとたちのようなイメージがあるかもしれない。 しかし、ブラック・フェミニストのベル・フックスのことばを借りると「フェミニズムとは、性に基づく差別や搾取や抑圧をなくす運動のこと」で、そのため に行動するフェミニストは、ごくあたりまえのことを求めているだけなのだ。
 ベイエリアでの様々な活動のなかでわたしが出会ったフェミニストたちは、自分の問題と向き合いつつ、グローバルな視点をもち、体制への批判だけではな く、オルタナティブな新しい文化を創造していく、繊細かつパワフルなひとたちだった。そして彼女たちこそが、わたしが肌で感じてきた「ベイエリアの 風」、すなわち、型にはまらず自分らしさを追求し、プロセス指向で何をやるにもたのしもうとする、そんな「風」を巻き起こしてきたひとたちであった。
 そのようなロールモデルたちの生き方を目の当たりにし、わたしはフェミニズムの真髄を身体で学んできたような気がする。とにかく「自分のことをもっと 知りたい!」という思いで心理学やカウンセリングを学ぼうとアメリカに渡り、そのプロセスのなかで、ありのままの自分を受け入れ、愛おしみ、大切にする ことを学んだわたしは、一人ひとりの多様なあり方を受け入れる「フェミニズム」や「人権」というテーマに自ずと行き着いた。フェミニズムの理論や定義よ りも、そこで活動するひとたちとの関わりがとてもたのしく、心地よかった。そして、そんなたくさんの出会いと対話を通して、「自分らしく生きる」ことを 選択し、行動していく強さを培ったように思う。
 さて日本では、ベル・フックスの 『フェミニズムはみんなのもの』を翻訳した堀田碧さんが、この10月から月に1回、東京・九段下でbell's cafeという活動をはじめた。アラブでは、カフェが、ヨーロッパの植民地政策への抵抗文化を育む場として発展したことと、ベル・フックスのメッセージ を重ねて、毎回テーマに沿って『フェミニズムはみんなのもの』を読みながらたのしくトークする、女性の集いの場が生まれたのだ。
 

2回目となる集まりにさっそく足を運んでみると、すてきなカフェのいちばん奥の一角で、女性たちが大きめのテーブルを囲んでいた。今回の参加者は9人 で、テーマは「美」。まずはじめに、本の「内面の美、外面の美」の章を交代で朗読し、気になるセンテンスについて感じたことや経験してきたことを共有し 合う。後半ではそれぞれがもってきた、そのテーマを表していると思われる絵、写真、小説、イメージなどをシェアして、さらに話は盛り上がる。
 朗読すると、ひとりで読むときとは感じが違う。声に出して読み、またほかの女性の声を聴く。いろいろな声を聴くことで、いろいろな人生を感じる。そこ からカラフルな多様性が浮かび上がり、わたしは、今回のテーマである「美」を感じた。本の内容をその場で実践しているような、平面の活字が立体的になる ような、もうすでにここから何かがはじまっているような……、そんな何ともいえない高揚感を、コーヒーの蒸気とともに、こころゆくまで味わった。

戦争や身近な暴力や不安が蔓延する世の中で、平和や愛や夢、そして自分らしく生きることを選び、そのために行動するのは簡単ではない。しかし、自分を 語り、相手の話に耳を傾ける、自分を感じ、相手を感じる、そんなあたりまえのコミュニケーションをしていると、どんどん自分でいることが心地よくなり、 新しい出会いに喜びと希望を感じてくる。
  3時間があっという間に過ぎた。カフェのマスターから「bell's cafeがあるときはお客さんがたくさん入る!」と感謝され、「やはりいいエネルギーはひとを呼ぶね!」とみんなで顔を見合わせた。外に出ると、冬の風 がわたしの中を駆けめぐった。自分の内側を風通しよくすること、その大切さを改めて感じながら思った。「結局、風を吹かすのはひとびとのあり方なんだな」